チーズケーキは人工的な食物であると同時に、文化的な食物である|チーズケーキから考える「人工的なもの」について

チーズケーキは人工的チーズケーキ研究

 どこか作家だったか脚本家だったか忘れたが、チーズケーキは人工的な食物であるという趣旨の言葉を述べていたことがある。その発言を聞いた当時は、あまり良い気はしなかったが、考えてみればたしかにチーズケーキは人工的な食物である。

「人工的な食物」といわれるとあまり良い感じはしないが、見方を変えれば人工的であることは、文化的、あるいは文明的であるといえる。そのように考えると、人工的な食物であるチーズケーキは、実は極めて文化的な食物であるといえるのではないか。

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チーズケーキは人工的な食物である

チーズケーキには自然の存在が見えない

 チーズケーキが人工的であるというのは、その外見からも納得がいく。自然が全くないのである。

 たとえばショートケーキや柏餅や桜餅などは、自然界に存在する食材を一部に使っている。もちろんそれらの葉や果物は、人間が長い年月をかけて品種改良してきたものであり、その意味では人工的であるといえるかもしれない。しかし、ひとまず自然に生えているものをそのまま使用しており、自然の存在を確認できる。

 一方でチーズケーキには、果物も葉も種も一切ない。自然界に絶対に存在し得ない食物であり、人間が存在しなければ、存在していない食物なのである。

 またチーズケーキは、一見しただけでは材料が全く想像できない。チーズケーキという名前から、チーズを使っていることはわかるが、料理を全くしたことがなければ、チーズ以外の材料はほぼわからないだろう。チーズケーキはたしかに人工的である。

チーズケーキは人工的材料の集合体である

 材料の面からみてもチーズケーキは非常に人工的である。チーズケーキの一般的な材料といえば、クリームチーズ、生クリーム、サワークリーム、ヨーグルト、卵、砂糖、小麦粉などである。これらの材料のうち、クリームチーズやサワークリーム、生クリームなどは人工的なものである。生クリームは偶然が重なれば自然にできるかもしれないが、クリームチーズやサワークリームはそうもいかない。人間の手がなければ絶対にできないものである。 

 チーズケーキに使われる乳製品以外の材料も、極めて人工的である。たとえば砂糖であるが、そもそも白い粉状の砂糖は自然界には存在しない。てん菜、あるいはサトウキビを煮たり圧搾したり、あれこれ人間が手を加えてようやく完成する。

 小麦粉に関してもそうである。麦は自然に放っておいても粉にはならない。麦を収穫し、挽き、ふるって粉にしなければいけない。特に現在一般的にみられる白くてサラサラした小麦粉は、特殊な機械を使わなければできないものである。

 このようにチーズケーキに使われる材料は、クリームチーズをはじめとする乳製品も、砂糖も小麦粉も、人間の手がなければ存在し得ない極めて人工的な食物である。唯一自然なものといえば卵くらいだろうか。しかしレアチーズケーキとなると、卵が使われない場合も多い。そうなるともはや、チーズケーキは人工物の集合体であるといえる。チーズケーキは間違いなく人工的な食物なのである。

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チーズケーキは文化的な食物である

チーズケーキは料理的である

「人工的な食物」という言葉には、あまり良い印象はない。何やら奇妙で不気味な食物であるように思える。しかし人工的であることは決して悪いとはいえない。というのも人工的であることは、料理の醍醐味であるといえるからだ。自然の食材を用いて、自然界に存在しない食物を生み出すことこそが、まさに料理なのである。

 食文化研究者の石毛直道は『世界の食べもの――食の文化地理』のなかで、料理について次のように述べている。

西ヨーロッパや中国の料理に関する思想には、料理とは、そのままでは食べられないものを技術をくわえることによって食べられるものに変化させることであるとか、料理とは自然には存在しない味を創造することである、といった主張がつよいようである。

 このように食材にあれこれ手を加えて、自然にない味を生み出すことが料理であるという思想が、西ヨーロッパと中国の傾向であると述べる。ちなみに日本料理にはまた別の思想があり、自然を料理の中で体現することが料理であるとされている。

 日本料理の思想については割愛するが、西洋・中華の価値観でいえば、人工的で自然界に存在しない味であることは、まさしく料理なのである。その意味では、チーズケーキが極めて人工的であることは、決してネガティブな意味を持たない。むしろ料理の目指すところを十分に達成した、極めて料理的な食物なのである。

 また「料理」という行為は、地球上では人間だけが行うとされている(咀嚼した食物を子に与えるという簡単な料理をする動物は存在する)。人間の営みを「文化」と呼ぶ。つまり、人工的であることは文化的であるといえる。チーズケーキは文化的な食物なのである。

チーズケーキは人間技術の集合体である

 チーズケーキは人工的である。チーズケーキには、牛から採れたミルクをクリームチーズや生クリームに加工する技術や、サトウキビを白い粉の砂糖に変換させる技術、小麦を粉にしてサラサラにする技術など、あらゆる人間技術が内包されている。いわばチーズケーキは、人間技術の集合体なのである。

 前述のとおり人間の営みとは「文化」である。つまりチーズケーキは文化の集合体なのである。

 ベイクドチーズケーキではさらにその文化性を感じられる。ベイクドチーズケーキは、最後にオーブンで焼く工程が入る。食物に熱を加える行為、つまり広義の火を使った料理は、自然界で人間だけが行うとされている。

 人間の技術によって作られた乳製品や砂糖、小麦粉を混ぜて、最後に焼く。まさに人間の営みのなかでしか生まれないものであり、その意味ではチーズケーキは極めて文化的な食物なのである。

【おわりに】人工的であることと文化的であることは同義である

 最後に文化について余談を少し。

 チーズケーキ以外の他のケーキも同じことがいえる。チョコレートケーキも、ティラミスも、バターケーキも、文化的であり、人工的なのである。

「人工的である」という言葉には、何やらネガティブなイメージがある。一方で「文化的である」という言葉にはポジティブなイメージがある。しかし実は、この2つの言葉はほぼ同義なのである。このように考えると、一部に存在する人工的なものを排除したがる姿勢や、文化の存続といった動きは、少し違ったように見えてくるような気がする。

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