たびたび見かけるクレームダンジュ(もしくはクレメダンジュ)とはいったいどんなスイーツなのか?
要点をまとめると以下のとおりになる。
- フレッシュチーズとメレンゲ、生クリームなどを混ぜて水切りして作るレアチーズスイーツ
- 1900年頃にフランスのアンジュ地方で生まれたフランスの伝統菓子
- ムースのようなしっとりした舌触りが特徴、ベリー系のジャムと合わせるのが一般的
本ページではクレームダンジュについて、その歴史や特徴などを詳しく解説していく。日本でクレームダンジュを購入できるお店を紹介しているので、食べてみたいと思った方はぜひご覧いただきたい。
【レシピの特徴】フレッシュチーズとメレンゲを混ぜて、水気を切ったレアチーズスイーツ

クレームダンジュ、もしくはクレメダンジュ(Crémet d’Anjou)は上記画像のようなスイーツである。
これはフロマージュブランというフレッシュチーズを使い、生クリームやメレンゲなどを混ぜ合わせ、水分を抜いたものである。ただし厳密なレシピはなく、日本で見られるクレームダンジュは、クリームチーズやカッテージチーズ、ヨーグルトを使っているレシピがほとんどである。そもそもフロマージュブランが手に入らないので他で代用せざるをえない。焼かないチーズケーキという意味ではレアチーズケーキの一種だといえる。
日本でもレシピは一般的に広まっていて、すでにクラシルにもある。
クレームダンジュのレシピ
【味の特徴】ふんわりした舌触りと乳製品の乳味を楽しむスイーツ

味はさっぱりしていて食べやすい。フレッシュチーズという熟成させないタイプのチーズを使用するので、臭みやクセもなく、塩味も弱い。やんわり感じられる酸味とフレッシュチーズや生クリームの乳味が味の主役となる。
クレームダンジュはラズベリーやストロベリーなど、ベリー系のジャムをトッピングする場合が多い。これはクレームダンジュそのものの味がシンプルであることを意味している。簡単にいえば、クレームダンジュだけでは味気ないからジャムとトッピングする例が多いのだ。
最大の特徴はおそらく、ムースのようなやわらかい舌触りだろう。メレンゲや生クリームと合わせふわっとした舌触りは、クレームダンジュに特有のものである。クレームダンジュはこの舌触りとフレッシュチーズの乳味を楽しむためのスイーツだといえる。
【歴史】1900年頃にフランスのアンジュ地方で生まれた
『お菓子の由来物語』によるとクレメダンジュは、1900年頃にフランスのアンジュ地方で生まれたスイーツであり、もともとはフレッシュチーズではなく生クリームと卵で作っていた。
cremet=クリーム、d’anjou=アンジュ地方の。1900年頃、 酪農家がハバット(パターを作る機械=撹拌機)を使いクリームをこねる過程で、機械のプロペラやまわりに付着した クリームをかき集め、ソースをかけてデザートとして食べたのがはじまりだとされる。現在は、フロマージブランというチーズを使うのが一般的であるが、昔は生クリームと卵白のみで作っていた。1920〜30年代頃は「クレメダンジュ」 売りの少女がカゴに入れ、街で売っていたという。
お菓子の由来物語 猫井登
またフランスのアンジュ地方にある「Crêmetd’Anjou」という名前のレストランのWEBサイトでは、1890年に生まれたものであると紹介されている。(参考:レストランのサイト)
このクレメダンジュ(crémet d’Anjou)は、アンジュ生まれの美食評論家キュルノンスキー(Curnonsky)が、1921年に自身の著書のなかで「神々のごちそうだ( Le crémet angevin est un régal des dieux.)」と絶賛したという話がある。(参考:Wikipedia -Crémet d’Anjou)
このタイプの菓子にベリー系のソースを入れたのは、パティシエ・シマのオーナシェフである島田進さんという話があります(参考:フランス菓子の殿堂、麹町の情熱的パティスリー<パティシエ・シマ>。クレームアンジュなど代表作をご紹介。)。詳しいことは現在調査中です。
ちなみに『洋菓子百科事典』(吉田菊次郎)では、クレメは「クリーム状のもの」を意味すると紹介している。そして「Anjou」はフランスのアンジュ地方を指す。また中間の「d’」はフランス語の前置詞「de」を略したものである。「crémet d’Anjou」は直訳すれば「アンジュのクリーム状のもの」になる。ちなみに日本ではクレメダンジュとクレームダンジュの2つの呼び方が存在する。その理由は後述する。
またフランス語表記にも二通り見られる。基本的に「crémet d’Anjou」と記載することが多いが、「crémet d’Angers」と表記する例も見られる。『フランス伝統菓子図鑑』によると「Angers(アンジュ)」は都市名であり、「Anjou(アンジュー)」は旧地方名である。歴史的には「Crémet d’Anjou」のほうが古いと説明されている。
また「天使のクリーム」「天使のチーズケーキ」と呼ばれることがあるが、これは「anjou(アンジュ地方)」を「天使」を意味する「ange(アンジュ)」という言葉にかけて呼ぶようになったものだと考えられる。
海外のインスタグラムの投稿を調べてみるといくつか画像を見つけられる。それほど多くはなく、一般的なものではないようだ。
日本では2005年にはネットで存在が確認できる
日本では2005年にはすでにネットでレシピが公開されていたことが確認できる。しかもそのサイトには「定番スイーツのひとつ、クレームダンジュ(クレメダンジュ)」と冒頭に説明がある。2005年時点ですでに定番のスイーツとして存在していたようである。
Twitterが一般的になりはじめた2013年頃には、すでに「クレームダンジュ」に関するツイートがたくさん見受けられた。あまり話題になることはないが、一部のレストランやケーキ屋などでは昔から販売されているものであり、現在でも一部のファミリーレストランやコンビニ、スーパーでもみられる。日本では定番スイーツであるといえるのではないだろうか。
そもそもフランスでは1900年代から存在するスイーツなので、日本でも感度が高い菓子職人が商品化している可能性は十分にあるだろう。
※2005年にAllaboutで公開されたクレームダンジュのレシピ
ちなみに以前は、チーズケーキ専門店のチーズガーデンや、回転寿司のかっぱ寿司が販売していた。
また2020年頃には成城石井が「クレームダンジュ あまおう苺ジャム入り」を販売。2022年1月にはセブンイレブンが「ふわれあ」という商品名でクレームダンジュのような商品を販売。2022年5月にはローソンストア100が「クレーム・ダンジュ」という商品名でクレームダンジュを販売。


2022年7月にはファミリーマートが「クレメダンジュ」という商品を販売。こちらはカップタイプであった。カップタイプになると、もはや普通のレアチーズスイーツのようであるが、色々な形に変化するあたりは、このスイーツへの注目度が高まっている証拠だろう。

「クレームダンジュ」と「クレメダンジュ」の2つの呼び方が存在する理由とは
ちなみに日本では「クレームダンジュ」と「クレメダンジュ」の2つの呼び方が存在する。どちらもほぼ同じスイーツである。
もとの言葉である「crémet d’Anjou」は、フランス語に近い発音をすれば「クレメダンジュ」になる。普通は「クレームダンジュ」にはならない。フランス菓子を紹介する書籍を3冊確認したが、どれもカタカナ表記は「クレメ・ダンジュ」であった。
参考
・『お菓子の由来物語』猫井登 幻冬舎ルネッサンス
・『フランス伝統菓子図鑑』山本ゆりこ 誠文堂新光社
・『洋菓子百科事典』吉田菊次郎 白水社
またクレーム(crème)とクレメ(crémet)は意味も微妙に違う。クレーム(crème)は単にクリームを意味するが、クレメ(crémet)はクリーム状のものを意味するとされている。前述のとおり、クレメダンジュは、”アンジュ(地名)のクリーム状のもの(菓子)”という意味で、その名が付けられている。一方で、クレームダンジュだと、”アンジュ(地名)のクリーム”になってしまう。伝わらなくはないが、微妙に違う。
いったいどうして「クレームダンジュ」が生まれたのか? おそらくクレメダンジュを日本に紹介した人が、どこかのタイミングで、便宜的に、もしくは間違って「クレームダンジュ」という表記にしたのだろう。
前述のとおり、クレーム(crème)とクレメ(crémet)は非常に似た言葉である。クレメ(crémet)という単語は、crémer(クリーム状にする)という動詞が名詞化したものだとされている。どれもクリームに関する語であり、それがごっちゃになることも考えられる。あるいは日本に導入する際、「クレメ」よりも「クレーム」の方が、その状態が想像しやすいので「クレームダンジュ」にしたか。
誰が最初に「クレームダンジュ」という言葉を使ったのかは分からない。ゆえにこれらは推測でしかない。いずれにしても、日本では「crémet d’Anjou」をクレメダンジュと呼んだり、クレームダンジュと呼んだりする。厳密にはクレメダンジュであるが、日本ではクレームダンジュという呼び方も定着しているので、どちらも正しいといえる。
クレームダンジュが買える店・食べられる店
さてここからは現在、クレームダンジュが買えるお店を紹介する。
【パティシエ・シマ】のCreme Anjou(クレームアンジュ)
東京麹町にある人気の洋菓子屋「パティシエ・シマ」はクレームアンジュという名前で、クレームダンジュのようなスイーツを販売している。


こちらはネットでも取り寄せができるので、パティスリーのクレームダンジュが食べてみたいという方はぜひ注文してみてほしい。

※パティシエシマの詳細

【チーズケーキガーデン】のクレームダンジュ

まだ実際に食べていないが、情報だけ掲載する。「御用邸」のチーズケーキでも有名なチーズガーデンが一部の店舗で販売しているチーズアソートというメニューがある。このメニューにクレームダンジュが含まれている。
※詳細解説はこちら

【むさしの森珈琲】のフレッシュイチゴのクレームダンジュ
むさしの森珈琲は、すかいらーくグループが運営するカフェである。こちらにもクレームダンジュがある。



なかにイチゴのソースが入っており、また表面にイチゴとミントのトッピング、さらに別添えでラズベリーのシャーベットまである豪華仕様だ。水気が少なくて口当たりが良く、筆者としてはここのクレームダンジュが一番好きだ。
※さらに詳しい解説はこちら

【銀のぶどう】かご盛り白らら
銀のぶどうは、シュガーバターの木や東京ばなななどのブランドを持つグレープストーンのブランドである。この銀のぶどうは、かご盛り白ららという、クレームダンジュによく似たチーズスイーツを販売している。




こちらはクレームダンジュを参考にしたとはまったく明記していないが、フレッシュチーズを水切りしたスイーツと説明しており、製法はクレームダンジュとそっくりだ。また味や風味、口当たりなどもクレームダンジュにそっくりである。クレームダンジュ的なものであることは間違いない。
※銀のぶどうの詳細

【成城石井】のクレームダンジュ あまおう苺ジャム入り
2021年、もしくは2020年の終わり頃からかもしれないが、成城石井が「クレームダンジュ あまおう苺ジャム入り」を販売している。テレビ番組でも紹介されたそうで一時話題になった。



こちらはクレームダンジュにベリー系のソースのトッピングという定番の組み合わせである。全国にある成城石井で購入できるようなので、数少ない手軽に買えるクレームダンジュである。
※さらに詳しい解説はこちら

この記事で紹介した以外にも、クレームダンジュを販売しているお店はまだまだたくさん見つかると思う。
SNSで検索するとたくさん見つけられるので、ぜひ検索してみてほしい。
おわりに
成城石井が販売したことで、筆者はクレームダンジュの存在を知ったが、深く調べてみると日本では20年前から販売しているお店があった。おそらくもっと昔から販売しているお店はいくらでもあるだろう。
一方で2021年になってじわじわ話題になっている気がする。成城石井のクレームダンジュがテレビで取り上げられた影響があるのだろうか。2021年、2022年頃のトレンドスイーツになるかもしれない。
参考文献
- 『お菓子の由来物語』猫井登 幻冬舎ルネッサンス
- 『フランス伝統菓子図鑑 お菓子の由来と作り方: 定番菓子から地方菓子まで132種を網羅した決定版』山本ゆりこ 誠文堂新光社
- 『洋菓子百科事典』吉田菊次郎 白水社
- Wikipedia -Crémet d’Anjou
- Crêmetd’Anjou(フランスアンジュ地方にあるレストランのサイト)
- Allaboutー簡単!クレームダンジュの作り方・レシピ
その他の関連記事
当ブログで過去に紹介したクレームダンジュはこちら。
その他のチーズケーキ、チーズスイーツの解説はこちら。



