2019年の終わり頃から世界中に蔓延した新型コロナウイルス。海外から来訪者は激減し、また国内では緊急事態宣言が発令され、旅行、県をまたぐ移動、外食の自粛要請、仕事のオンライン化の促進によって、外出する人が激減した。
そんななかフード界隈で見られた2つ現象がある。1つは家で過ごす時間が増えたことによる取り寄せ需要増加。もう1つはネット販売を開始する飲食店の増加である。
在宅ワークの奨励によってそもそも外出する機会が減った。たとえ外出しても大半の飲食店は時短営業もしくは休業である。外食したくても家で食事せざるを得なくなり、結果的にオンライン通販を利用したお取り寄せ需要が増加した。
他方、飲食店は営業時間の短縮と感染症対策による席数の減少によって売り上げが減少。外出の自粛は売上の低下に追い打ちをかけた。多くの飲食店はなんとか売上を確保すべく通販を開始した。自社サイトにショッピングカートを追加したり、SNSで発送を受け付けるなどして、通販に対応した。
これほど多くの飲食店が通販をはじめた時代は歴史上ないだろう。
チーズケーキをオンラインで販売する店が急増
筆者はチーズケーキのトレンドを観察しているのだが、コロナ禍はチーズケーキのオンライン販売を急増させた。もちろんチーズケーキ以外の色々な商品もネット通販で売られたし、その1つ1つを調べて統計をとったわけではない。それでも多くの店がチーズケーキのネット販売を開始する様子を目の当たりにしたのは事実である。
たとえばこれまでずっと対面販売だけをしていた洋菓子屋が自社サイトにショッピングカート機能を追加したり、カフェ、フレンチレストランも通販サイトを立ち上げチーズケーキの販売を開始した。さらには和風の創作居酒屋や、街の小さなアングラ系のバーまでもがチーズケーキのネット販売を開始した。
居酒屋やバーまでもがチーズケーキをネットで販売するという現象は、コロナ禍以前はほぼ見られなかった。歴史上、もっとも多くの店がチーズケーキを販売した時代であるといっても言い過ぎではないはず。店にとってはまったく望ましくない時代の訪れであるが。
なぜ多くのお店がチーズケーキの通販をはじめたのか?
カフェやレストランだけでなく、居酒屋やバーまでもチーズケーキを販売している様子をみれば、チーズケーキをネットで販売するお店が増えたのは明らかだといえる。
多くのお店が通販をはじめたのは売上を確保するためであるが、ではなぜ多くのお店がチーズケーキを選んだのだろうか。店で出している他の料理や他のスイーツではなくチーズケーキだったのだろうか。
その理由は以下にあると考えられる。
- レシピが豊富である(本やネットに)
- 失敗しづらい、簡単でほぼ誰でも美味しく作れる
- アレンジの幅が広い
- 冷凍保存ができる
- 解凍しても味や食感が損なわれない場合が多い
- 形が崩れにくく、配送に適している
チーズケーキは混ぜて焼くだけで作れるもので、洋菓子のなかでも比較的簡単な部類に入る。レシピ通り作れば失敗することはないし、美味しいものができる。レストランや居酒屋を営むような料理の知識がある人ならなおさら、美味しいチーズケーキなんて簡単につくれてしまうだろう。
またチーズケーキは自由にアレンジができ、そのバリエーションは非常に豊富である。使うチーズを変えたり、抹茶を混ぜたり、焼き時間を変えたりすることでいろいろなチーズケーキが作れる。しかもたいてい不味くなることはない。
そしてチーズケーキはとくに形が崩れにくいし、冷凍保存も可能で、冷凍してしまえばさらに形が崩れにくくなるので配送にも適している。
食べる際は冷凍品なら解凍するだけなので、調理の手間がない。解凍するだけで店が想定した味をそのまま家庭でも楽しめるのだ。
一方でラーメンやカレー、肉を使った料理や様々な具材を使ったスープは冷凍に適さない場合もある。レトルトにするにしても技術が必要で手間がかかる。もちろんそういった冷凍やレトルト化を手助けしてくれる業者もあると思うが、手間がかかるのは間違いない。一方でチーズケーキは作って冷凍、配送するだけでいい。味が変わることもない。むしろちょっと時間を置いたほうが追熟されて美味しくなる場合もあるほどだ。
まとめるチーズケーキは簡単で個性を出しやすく、そして保存や配送などの機能的な面でも優れていた。ゆえに多くのお店がネットでの販売を開始した。筆者はそう考えている。
【おわりに】この状況が当たり前になる
洋菓子屋だけでなく、有名レストランや居酒屋など、様々お店のチーズケーキがオンラインで購入できるようになったのは非常にありがたいことである。しかしオンライン販売は店によっては苦肉の策である。居酒屋がチーズケーキをネットで販売するなんて異例の事態であり、苦肉の策以外のなにものでもないだろう。いくら便利になったからといって、手放しで喜べるようなことではない。
それにしてもこの状況はいつまで続くのだろうか。
本記事執筆時点、東京都には三度目の緊急事態宣言が発令された。今回は生活必需品を販売する店は時短営業で、それ以外の店は休業要請が出ている。スーパーやコンビニは営業している一方で、百貨店や映画館、テーマパークのなかに休業を選ぶ店が多くある。さらに「街灯以外の灯りは全部消すべき」「テーマパークは無観客で」といったバカげた要請もそこここで見受けられる。
飲食店に目を向けてみると完全休業や、通常営業をやめてネット通販、出前、テイクアウトのみシフトする店、予約客のみ対応する店など、生き残るためにあらゆる工夫を凝らしている。クラウドファンディングやSNSでは、コロナ禍によって経営が厳しくなった飲食店を応援する動きが存在している。「買って応援」「食べて応援」などのワードは今でもよくみかける。それでも残念ながら閉店してしまった店はたくさんある。
こんな状況、早く終わるにこしたことはないが、もう1年以上も続いており、まだまだ終わりが見えない状況だ。もはや終わりなど存在せず、これが日常の風景になるのかもしれない。
私たちはいつまでも「買って応援」「食べて応援」ができるわけではない。応援したいが金は有限だ。だからといって政府もあてにできない。飲食店も、飲食店以外の人も、もうこれが日常になるかもしれないという前提で、生きていくべきなのかもしれない。
「コロナが終わったら……」などということは考えないほうがいいのかもしれない。