ニューヨークチーズケーキは、ベイクドチーズケーキと同じく頻繁に見かけるチーズケーキだが、普通のベイクドチーズケーキと何が違うのか、パッと見ただけではわからない。
いったいニューヨークチーズケーキとは何なのか? どんなチーズケーキケーキのことを指すのか? この記事ではニューヨークチーズケーキついて解説する。
- ベイクドチーズケーキの一種
- 湯煎焼きにし、しっとり滑らかな口当たりで、濃密であることが多い
- 明確な定義はない
ニューヨークチーズケーキの一般的な特徴
まず知っておいてほしいのは、ニューヨークチーズケーキに明確な定義は存在しないということ。
ネットでは「ニューヨークチーズケーキとは〇〇である」といった解説記事がたくさん存在するが、その定義から外れたニューヨークチーズケーキもたくさん存在する。作り手が違えば、まったく違うニューヨークチーズケーキができあがる。
それを踏まえてニューヨークチーズケーキの一般的な特徴を紹介すると以下の通りになる。
特徴1:湯煎焼きにしている

ニューヨークチーズケーキのレシピは必ずといっていいほど、湯煎焼きにする。
湯煎焼きとはオーブンの天板にお湯を張って焼く焼き方のことで、湯煎焼きにすることでケーキの水分が逃げず、濃密でしっとりしたニューヨークチーズケーキに仕上がる。
そして10のニューヨークチーズケーキのレシピ(ネット5、書籍5)をチェックてみたところ、9のレシピが湯煎焼きしていた。
ちなみに湯煎焼きしていないニューヨークチーズケーキのレシピを公開していたのはクラシル。クラシルを正規のレシピとしてカウントしていいのかは正直わからないが、とにかくクラシル以外のニューヨークチーズケーキは、すべて湯煎焼きしていたのだ。
サンプルは少ないが湯煎焼きはニューヨークチーズケーキの特徴の1つとしてカウントできだろう。
ちなみにニューヨークチーズケーキはもともと湯煎焼きではなく、二度焼きしていたらしい。最初に高温で短時間焼き、次に低温でじっくり焼き、火の消えたオーブンでゆっくり冷ます。
これによりしっとりして濃密なチーズケーキを作っていたそうなのだが、現在は湯煎焼きが主流になっている。
特徴2:しっとり、濃厚、コクがある

ニューヨークチーズケーキの紹介文をみると、必ずといっていいほど、「しっとり」「濃厚」「コク」「濃密」といったキーワードが登場する。
「しっとり」「濃厚」「コクがある」といった特徴を持つチーズケーキが、ニューヨークチーズケーキであると認識されているようだ。
これは日本だけでなく、海外でも見られる認識だ。
「チーズケーキとNYチーズケーキは何が違うのか?」と題した記事では、「滑らかでコクを感じられる濃厚なものこそがニューヨークチーズケーキだ」と紹介している。
What makes a New York cheesecake official is its dense texture, which feels so smooth and rich you can’t eat more than a small-to-medium slice without regretting it later.
What’s the Difference Between Cheesecake and NY Cheesecake?
またウィキペディアでも、「典型的なニューヨークチーズケーキは、濃密・濃密で口当たりがしっとりしている」と紹介いている。
The typical New York cheesecake is rich and has a dense, smooth, and creamy consistency.
Wikipedia
「ニューヨークチーズケーキは濃厚でしっとりしている」
これはニューヨークチーズケーキの確固たる特徴の1つと言って間違い。
ただし、しっとりや濃厚の感じ方は人それぞれだ。しっとりしていない、濃厚ではないと感じるニューヨークチーズケーキも当然存在する。
それは筆者にも経験がある。
ニューヨークチーズケーキに明確な定義は存在しない
ここまでニューヨークチーズケーキの特徴が紹介したが、その特徴から外れるニューヨークチーズケーキも存在する。
湯煎焼きに関しても、口当たりに関しても。
日本には実に色々なニューヨークチーズケーキが存在する。例えば以下の画像はすべてニューヨークチーズケーキという名で販売されていたチーズケーキだ。
質感も焼き色も違う、味も口当たりもまったく違う、土台があったりなかったりもする。
お店によってカレーがまったく違うように、ニューヨークチーズケーキは店によってまったく違うのだ。こうなってしまうのはやはり、ニューヨークチーズケーキの明確な定義がないから。
ニューヨークチーズケーキに関しては、作り手がニューヨークチーズケーキといったらそれはニューヨークチーズケーキになる。
あなたがどんなニューヨークチーズケーキをつくろうとも、従来のニューヨークチーズケーキとはまったく異なっていようとも、それは正解でも不正解でもない。
ニューヨークチーズケーキの語源
続いてはニューヨークチーズケーキの歴史について説明する。
まずはなぜニューヨークチーズケーキと呼ばれるようになったのかについてだが、これには2つの説が存在する。
1つは、ニューヨークで食べられているチーズケーキが、自然とニューヨークチーズケーキと呼ばれるになったという説。
もう1つは、ニューヨークメソッドで造られるからニューヨークチーズケーキと呼ばれるようになった、という説だ。
説1:いつのまにかニューヨークチーズケーキと呼ばれるようになった
ニューヨークチーズケーキが生まれたのは当然、ニューヨークだ。
1900年代、アメリカに移り住んだユダヤ人がチーズケーキのレシピを持ち込んだ。それがニューヨークで改良を加えられて、現在のチーズケーキのような形になり、色々なお店で提供されるように。
ニューヨークでよく見られるチーズケーキのことを、ニューヨークの人たちがいつのまにか、「ニューヨークチーズケーキ」と呼ぶようになり、これがニューヨークチーズケーキと呼ばれるようなったきっかけだと言われている。
特定の誰かが「ニューヨークチーズケーキ」と名付けたのではなく、ニューヨークの人々が自然とニューヨークチーズケーキと呼ぶようになったのだ。
the name “New York Cheesecake” came from the fact that New Yorkers referred to the cheesecakes made in New York as “New York Cheesecake.”
Cheesecake History What’s Cooking America
説2:ニューヨークメソッドが語源である
日本語でニューヨークチーズケーキを調べると見つかるのが、「ニューヨークメッソド」というものだ。
ニューヨークメソッドとは、先に紹介したチーズケーキを二度焼きする方法のことだ。
最初に高温で焼き色をつけ、その後超低温でゆっくり焼き、火の消えたオーブンの中でゆっくり冷ます、「ニューヨークメソッド」と呼ばれる方法にたどり着いたのが語源といわれています。
人気料理家11人の本当に美味しいチーズケーキ (KADOKAWA)
この手順でチーズケーキを焼くことにより、しっとりして濃密なチーズケーキに仕上げていた。このニューヨークメソッドがニューヨークチーズケーキの語源であるというのだ。
しかし、「ニューヨークメソッド」という言葉が登場するのは日本語のサイト、書籍だけであり、英語のサイトでは、「ニューヨークメソッド(New York Method)」などという単語は一度も見かけなかった。ニューヨークメソッドが、ニューヨークチーズケーキの語源であるという記述もなかった。
ニューヨークメソッドは日本人が勝手に言い始めたのかもしれない。
もしくは日本におけるニューヨークチーズケーキと本場ニューヨークのニューヨークチーズケーキとは別であり、日本におけるニューヨークチーズケーキの語源が、ニューヨークメソッドにあるのかもしれない。
ニューヨークチーズケーキを初めて作ったのは誰か?
誰が、どの店がニューヨークチーズケーキを初めて提供したかについては、諸説あり正確な情報はない。色々なお店が、うちがオリジナルだと主張しているそうだ。
ただし、ニューヨークチーズケーキのようなチーズケーキを初めて作ったのはマンハッタンにレストランを開いたアーノルド・ルーベン(Arnold Reuben)さんという説がある。
本人は、「ニューヨークチーズケーキを最初に作ったのは私である」と主張している。
Reuben claimed that he developed and sold the first New York style cheesecake(using Break-stone’s brand cream cheese) while others were still using cottage cheese.
ARNOLD REUBEN: NEW YORK RESTAURATEUR
Arnold Reuben, owner of the legendary Turf Restaurant at 49th and Broadway in New York City, claimed that his family developed the first cream-cheese cake recipe.
Cheesecake History
ドイツからアメリカに移民したユダヤ人であるルーベンさん。彼はチーズパイからヒントを得て、チーズケーキを考案した。それが最初のニューヨークチーズケーキであると、本人は主張している。
ただし、チーズケーキ自体は1900年前後からアメリカではすでに存在している。
※参考: https://www.juniorscheesecake.com/blog/2016/07/27/the-history-of-cheesecake/
ルーベンさんが開発したのはあくまで、ニューヨークチーズケーキのようなチーズケーキであって、チーズケーキそのものを開発したわけではない。
またニューヨークでチーズケーキをポピュラーにしたのは、Lindy’sというジューイッシュダイナーのチーズケーキという話も。
1900年代のニューヨークでは、色々なお店がチーズケーキを出しており、どのお店が最初のニューヨークチーズケーキだったのかは見分けがつかない状態のようだ。
日本でニューヨークチーズケーキが登場したのはいつ頃か?
「日本にニューヨークチーズケーキが登場したのはこの時期だ」という文献は今のところ見つからなかったので、推測になるが、日本で初めてのニューヨークチーズケーキは、1990年のパパジョンズではないかと考えている。
パパジョンズは京都にあるチーズケーキ専門店だ。
1990年に京都でオープンしたカフェで、ニューヨークチーズケーキを出したとの記述が公式サイトにある。
※パパジョンズ公式サイト
ニューヨークチーズケーキという名前で販売したかどうかは定かではない。
ニューヨークチーズケーキを販売しているお店で、パパジョンズ以前に存在しているお店を今のところ見つけられていないので、パパジョンズが日本のニューヨークチーズケーキのはしりなのではないかと推測している。
ちなみに日本でチーズケーキが一般的になるのは1970年代だ。1969年にモロゾフがデンマークチーズケーキを発売したのがきっかけで、チーズケーキがブームになった。
この時、モロゾフが発売したのは、ドイツのチーズケーキを参考したものだったので、ニューヨークチーズケーキではない。
1970年代のチーズケーキブームのときに、ニューヨークチーズケーキが存在していたのか? そしてニューヨークチーズケーキという名称は存在していのか? これは明らかではない。
ニューヨークチーズケーキを作る時に使うクリームチーズは1970年代にはすでに存在していたようなので、ニューヨークチーズケーキ的なチーズケーキが存在していた可能性は十分にある。ニューヨークチーズケーキという名称は存在していないとしても。
日本におけるニューヨークチーズケーキの歴史は、今後の調査で明らかにしていきたい。
※参考資料
- Cheesecake History What’s Cooking America
- Evolution of New York’s Cheesecake
- The Rich History of a Favorite Dessert
- The NY Cheesecake: A little History and a Yummy Recipe
- Wikipedia cheesecake
- ARNOLD REUBEN: NEW YORK RESTAURATEUR
- What’s the Difference Between Cheesecake and NY Cheesecake?
- The History of Cheesecake -Juniors
- ニューヨークチーズケーキの語源のお話
- 愛されるチーズケーキの歴史と秘
- パパジョンズ
- お菓子の由来物語 猫井登著 幻冬舎
- 人気料理家11人の本当に美味しいチーズケーキ KADOKAWA
- スイーツ手帖 一般社団法人 日本スイーツ協会 (監修) 主婦と生活社
- ファッションフード、あります。畑中 三応子著 筑摩書房