1960年に六本木の飯倉片町に誕生したイタリアンレストランのキャンティ。多くの著名人が出入りしていた時代もあり、当時は人々の憧れの場所になっていたこのお店。
実は日本においてかなり早い段階からチーズケーキを提供していたお店でもある。しかもどこにでもよくあるチーズケーキではなく、「フィアドーネ」という一風変わったチーズケーキだ。
本記事ではそんな珍しいチーズケーキを、キャンティの歴史なども交えながら紹介できればと思う。
※「チーズケーキの情報だけとりあえず知りたい」という方は、目次から【食べた感想】の項をご覧いただければと思う。また「イタリア式食堂キャンティ」というお店があるがこちらとは全く別のお店になる
- キャンティの公式サイト
- キャンティは六本木と西麻布にレストランが、松屋銀座と丸ビルに対面販売店がある
Chianti(キャンティ)について
キャンティは港区麻布台3丁目の飯倉片町で創業したイタリアンレストランだ。六本木交差点から東京タワーの方向に8分歩くと見えてくるのが、1号店であり本店である飯倉片町店だ。
ここの1階はカフェになっていて、地下1階がレストランになっている(ケーキのテイクアウトも可能)。ちなみにレストランは他にも西麻布にある。
その他、銀座松屋と丸ビルに対面販売店を出店している。
※キャンティの店舗情報みる
ケーキのラインナップ
今回は飯倉片町の本店と、銀座松屋の対面販売店の2つにお邪魔した。銀座松屋の地下1階にあるテイクアウト専門店には、キャンティ本店で提供しているケーキの数々を購入できる。
またデパ地下の店舗では限定商品としてマドレーヌを販売している。手土産として重宝するメニューを銀座限定で置いているのだろう。
その他、モンブランやティラミス、アップルパイ、チョコレート系のケーキ、プリン、チーズケーキ(2種類)など様々なケーキが置いてある。イタリアンレストランとして創業したにもかかわらずケーキ屋さながらの種類の豊富さだ。



キャンティは1960年にオープン
キャンティが六本木に誕生したのは1960年。オーナーである川添浩史氏とその妻、梶子氏が「本格的なイタリアンレストランがまだないから」という理由でオープンした。
芸能関係者のたまり場になり、「キャンティ族」という言葉が生まれた
今では繁華街、オフィス街として知られる六本木だが、1960年頃はまだまだ小さな八百屋や雑貨屋が並んでいた。また眠らない街という異名を持つ六本木だが、当時は夜遅くまで営業しているお店はほとんどなかった。
そんななか本格的なイタリア料理を食べることができ、午前3時まで店を開けていたキャンティは、周辺に勤務する放送関係者や芸能関係者、銀座や赤坂のホステスに好まれ、自然と華美な人たちが集まる場所になった。
常連のなかには、三島由紀夫や岡本太郎、黒澤明、松任谷由実、ミッキーカーチス、大原麗子、堺正章などなど、あげればキリがないほど多くの著名人がいたという。そんな大人の社交場であったキャンティに出入りするハイステータスな人たちを指す言葉として「キャンティ族」という言葉も生まれた。
多くの著名人に愛され、華やかな世界の象徴的レストランになったキャンティ。その歴史は「キャンティ物語」として一冊の本になるほど、濃密なものだった。筆者も購入して一読してみたが、店を開いた川添夫妻の話やキャンティに出入りしていた著名人の話などが詳しく紹介されており、キャンティというレストランがいかに公共性のある場所だったかがわかる。
ちなみにキャンティの本店は健在だ。
六本木のレストランというだけあり、ディナーの値段はちょっと高めではあるが、ランチや1階のカフェなら1000円プラスαくらいの値段だ。少し背伸びをすれば、高度経済成長期に時代の流れの主流のさなかにあった名店「キャンティ」の雰囲気を堪能できる。
1960年、オープン当初からチーズケーキがあった
本記事の主題であるチーズケーキについても、オープン当初から提供していたメニューで、この「フィアドーネ」というチーズケーキは著名人にも愛されていたという(フィアドーネとは何かについては後述)。
ちなみに日本でチーズケーキが一般的になるのは1970年代以降だ。それ以前でチーズケーキを出していたお店は、ほんの数件しかない(トップス、まるた屋洋菓子店、ホテルオークラ、ケテルなど)。その数少ない店の1つがキャンティなのだ(参考:チーズケーキの歴史)。チーズケーキの歴史をめぐるなら必ず食べるべき一品だといえる。

キャンティ風チーズケーキ フィアドーネ
キャンティには2つのチーズケーキがある。1つは「フィアドーネ」で、もう1つは「NYチーズケーキ」だ。
まずはフィアドーネから紹介する。




「フィアドーネ」というチーズケーキは初めて耳にした。
調べてみると「フィアドーネ」とは、フランスの南の地中海に浮かぶコルシカ島(コルシカはイタリア語で、フランス語ではコルス島というらしい)で誕生したチーズケーキだそうだ。
コルシカ島は、現在はフランス領ではあるが、独自の文化をもった地域であり、フランス語のほかにもコルシカ語という島固有の言語が日常的に使われている。
「フィアドーネ」は、コルシカ島で作られるブロッチョオ(コルシカ語では”ブロッチュ”)という羊やヤギのミルクで作るフレッシュチーズを使ったチーズケーキだ。ただし海外のレシピサイトを調べてみると、単にリコッタチーズを使ったチーズケーキがフィアドーネと呼ばれているようでもあった。



日本でも「フィアドーネ」という名前のケーキを売っているお店が、キャンティ以外にもある。関西の高級ホテルのほか、キャンティと同じくイタリアンレストランで提供している例が1つあった。コルシカ島はイタリアからもほど近い場所にあるが、イタリアでも見受けられるチーズケーキなのだろうか。
一方で、日本でみられるフィアドーネがコルシカ島の「ブロッチョオ」というチーズを使ったものなのかはわからない。少なくともキャンティのフィアドーネには、そういったアピールはなかった。
老舗を思わせる、大人のチーズケーキ
さてキャンティのフィアドーネも、しっかりパイ生地を使用している。四角いチーズケーキになっており、これは珍しい。
さて味について。全体の印象としては、甘さを抑えて酸味を強調させた大人のチーズケーキという感じだろうか。
口にいれた瞬間、クリームチーズのリッチな風味が充満していく。その隙間から存在感のある酸味が抜けていき、非常に爽やかな印象だ。
濃厚でとろとろのチーズケーキにサクサクのパイ生地が非常にマッチしており、味、風味だけでなく、食感も楽しい。
美味しい。
濃厚さと酸味が際立つキャンティのようなチーズケーキは「しろたえ」や「トップス」といった老舗の洋菓子屋のチーズケーキを思い出させる。こういった老舗のチーズケーキは、なぜか酸味があって奥深い味わいがあるのだ。


※しろたえの解説
※トップスの解説
ちなみに酸味は焼くと飛んでしまうことが多い。焼くタイプのチーズケーキにおいて、はっきりわかるくらいの酸味を残すには一工夫が必要だ。つまりキャンティは焼いても酸味が飛ばないように工夫しているわけだ。
さすが著名人も愛したチーズケーキだ。最初の一口から最後の一口まで美味しかった。
値段、商品説明など
値段 | 540円 |
購入方法 | キャンティの店舗で購入可能。カフェがある店舗ではイートインが可能。 |
レストラン創業時から著名人に愛されているキャンティを代表するケーキの1つです。
店舗メニューより
【食べた感想】NYチーズケーキ
キャンティにはもう1つチーズケーキがある。それがNYチーズケーキ(ニューヨークチーズケーキ)だ。


ちなみに「NYチーズケーキ」はその名の通りニューヨークで誕生したチーズケーキで、濃厚さとしっとりした舌ざわりが特徴だ。とはいっても色々なニューヨークチーズケーキがあるので、「ニューヨークチーズケーキとは〇〇である」という断言はできない(参考:ニューヨークチーズケーキとは何か?)。
さて、キャンティのNYチーズケーキは側面にまでタルト生地があるタイプだ。箱を開けた瞬間からクリームの香りがして、食欲をそそる。材料を贅沢に使っている証拠だろう。




甘くてまろやかで食べやすいチーズケーキ
NYチーズケーキは先のフィアドーネとは味も食感も全然違う。
NYチーズケーキは酸味は控え目であるが、その一方で生クリームやクリームチーズのリッチな風味と卵などのまろやかな風味を感じられる。舌にのせた瞬間、「あっ、美味しい!」と瞬時に感じるような、本能に訴えかけてくるような美味しさなのだ。


やや厚めに作られたクッキー生地についても、風味、食感ともに美味しい。さすが老舗というべきか。非の打ち所がない美味しいチーズケーキであった。

値段や購入方法
値段 | 648円 |
購入方法 | お店で購入可能 |
2種類のクリームチーズを使ったまろやかなニューヨークスタイルのチーズケーキです。
店舗メニュー
各種リンク(公式サイトやお店のSNSなど)

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